イベントの内容
石田貴裕は、自ら収集してきたイメージを題材に作品制作をしています。それは興味が赴くまま集められたものであったり、街にありふれている看板のイメージなど無節操に題材を集め続けています。
石田はこれまで道路の標識、注意書きや看板などを絵画に引用してきました。 それらは描かれたものであり、実際に存在するものの「再現」でもありました。「絵を描くということは対象をある距離から捉え、画面上に再現する行為であり、自分が求めているものが本当にそれなのかという疑問の視点に変化してきた」と石田は言います。本展で石田が提示するのは、フラットな表面の再現行為を行うよりも、対象自体を同じ素材で作成してみるという「対象との距離が消えた絵画」を作った「鉄の構造体」作品です。 今回、鉄の作品と紙の版画作品にも使用しているのはシルクスクリーンです。シルクスクリーンは看板印刷にも使われており、筆跡や手作業の痕跡がなく、 「対象との距離が消えた絵画」を作る上では欠かせない要素と言えます。本展「Steel and Paper」は、鉄の上でできることと、そして紙の上でできることの違いを 共通の技術を通じて検証し続けた空間と言えます。
鉄の作品は、注意喚起をテーマとし、あらゆる人の業に対して警告をする作品になっています。正面から作品を観ると半分に切れた文字、色彩と共に様々なメッセージの受け取り方ができる一方で、作品の側面に視点を移すと「do not touch(触れないで)」と注記しています。
多角的な視点で作品を捉えると正面のメッセージの印象が変わっていくこと、距離を取り一度冷静に考える間を持つ事へと注意喚起を促しています。
版画作品では、儚いイメージがプリントされ、形状を留めていられないものを中心に表現しています。そのイメージ同士が重なり合い、具体的であったイメージ図が崩れていく感覚と崩壊しきる直前の状態を印象づけています。美術が可能にしてきた恒久的な美意識と崩れていく美意識、その二つのテーマのアンバランスに取り組んだ作品と石田は言います。
石田が提示する鉄と版画の素材でなければ表すことができない可能性をご覧ください。