イベントの内容
私は映画が好きだ。一緒にカンボジア旅行などをした旧友から「阪妻の『無法松の一生』を仙台で5月に上映する。成功させたいので推薦人を募っている、ぜひ参加してくれ」と頼まれた。映画愛好者らが上映実行委員会をつくり、彼は実行委員の一人。推薦人にはさまざまな肩書きの人が100人余もいる。ちょっと迷ったが断る理由はない。この作品は日本映画史などを読むとよく出てくるが、私自身まだ見ていない。ぜひ見たいし、友人も誘いたい。それに往年の日本映画の大スター、阪妻(ばんつま)と広く親しまれた阪東妻三郎(昭和28年、51歳で死去)も懐かしい。阪妻と言っても分からない若い人が多いかもしれない。俳優の田村高廣(故人)、田村正和、田村亮兄弟の父親で,時代劇の名優であった。
『無法松の一生』は4度、映画化されているが、これは最初の作品で、阪東妻三郎が主演、稲垣浩監督、伊丹万作脚本、宮川一夫撮影で、日本映画史上、白黒映画の傑作として極めて名高い。
太平洋戦争の戦局が急迫した昭和18年、大映京都で製作された。話は明治時代、無法松と呼ばれ酒と博打、喧嘩が大好きな人力車夫、富島松五郎が堀に落ちた少年、敏雄(子役時代の長門裕之)を救ったことから始まる。敏雄の父吉岡陸軍大尉に気に入れられ、吉岡家に出入りするようになり、吉岡大尉が病死した後、未亡人と遺児のため、親身なって世話する。酒、博打もやめ、別人のようになって尽くす松五郎だが、未亡人を慕う心がいつか芽生えてークライマックスの小倉祇園太鼓の乱れ打ちヘと進む。豊かな叙情性と優れたショットの積み重ねは観客の心を打ったという。
ただ、この作品は当時の内務省警保局の検閲で肝心なところがカットされた。「無学無頼の徒が陸軍士官の未亡人を恋慕するとは風俗を乱す」との理由だ。さらに戦後、アメリカ占領軍の検閲では小学唱歌『青葉の笛』などの歌が戦意高揚につながると削除された。カット分は18分。当時の切り捨てられたフィルムは復元できない。
そこで空白の部分を朗読、ビデオ映像、音楽、歌などを組み合わせ、映画評論家の白井佳夫さんが解説しながらつないで、作品の全体像を再現しようとの趣向。名づけて「完全復元パフォーマンス公演」。
『キネマ旬報』の編集長などを務め、長い間映画評論に携わってきた白井さんが、この優れた作品の切り裂かれた空白の部分をさまざまな表現法で埋め、あわせて検閲、思想統制によって映画をはじめとして文化や市民の暮らしが圧迫されていった実態を解き明かそうと企画、構成したユニークな公演である。昭和62年からスタート、全国で72回、ドイツでも公演した。朗読などは女優の林陽子、白井真木、ピアニスト霜浦百合子。映画、白井さんの話を入れておよそ3時間。
公演は5月23日(土曜日)午後1時30分から宮城野区文化センター「パトナホール」。前売り券は1800円、当日2000円。問い合わせ、電話予約は実行委員会070-5326-1974(大越さん)へ